ユージンさん提唱の自作系おはじき競技玩具「フリックスアレイ」。
自作が前提なだけあって、個性あふれる機体がいっぱいあるのは競技の魅力の一つ。

だけど、逆を言えばどの機体も個性的過ぎて、初心者が触って簡単に使えるかというと難しい所がある。1
また、「基準的な機体が欲しい」という話題も良く聞くので、技術レベルが上がり細い造形なのに壊れにくい機体を作れるようになった事もあり、昔からやってみたかった「安心して使える量産機」を開発してみました。

エクス・プレリュード
コンセプト
コンセプトは「貸出に特化した機体」。
具体的には「機体はまだ無いけど競技を体験してみたい」という層を想定。
だれが使うかわからない以上、
・壊れにくいこと
・比較的安全なこと
は絶対条件として
・扱いやすいこと
・わかりやすい性能であること
・手に取ってみたいと思わせる造形
あたりまでは必須。
それに加えて、興味を持ってもらうためには
・それなりに強いこと
・お手軽にカスタマイズ感を味わえること
が必要。
貸出なのだから
・量産出来ること
・持ち運びしやすいこと
・物足りないこと
も意識したい。
達成したい項目が多いので、なるべく兼ねながら要素を満たせるように設計してみた。2
新素材TPU
機体同士をぶつけ合い、時に硬い床に落下することもある競技「フリックスアレイ」3。
3Dプリンターで作った機体を使っていると、PLA4ではどうしても強度不足に感じる場面も増えてきた。
そんな現状を打開するため、ガチ機開発の過程で「TPU」という弾力のある素材の取り扱いを習得した5。
ラジコン界隈から教えていただいた技術だけど、フリックス用として使うTPUは紛うことなく新素材。

素材の力により「壊れにくい」がついに実現。
衝突や落下くらいのダメージなら余裕で耐える。
少し曲がった折れたりしても大丈夫。
素材自体に弾力があるのでに加え、念のためデザインの角は丸めてあるので人にあたっても「”比較的”安全」も実現。6
ついでに、万が一に備えてビスも未使用と安全にはこだわってみた。
勿論、せっかくの素材の弾力は安全のためだけではなく、性能面にも反映。
いわば全身がバネのようなもの。
高い反発力で攻撃性能を強化している。
さらには当然ギミックにも活用。(後述)
壊れにくいし細かい部品も無いので、鞄に雑に突っ込んでOK。
持ち運びしやすいのは、実際に貸出機として運用する上で想像以上に便利だった。
形状
デザインのコンセプトは「王道」。
何も知らない前提ならば、王道にカッコよいものの方が手に取ってもらいやすい。
というわけで『三角形と四角形を合わせれば格好良くなる』という先人達の知恵に倣って、自分制作としては極めて珍しい正統派のマシン系にまとめてみた。
現時点では、大人になっても逃れられない少年心をくすぐる「赤色」と「蓄光カラー」を用意。


性能面も、いろんなフリックスを作って7、触れ8、戦ってきた経験をもとに、基本的なシュートがやりやすく、パワー寄りの戦法もテクニックよりの戦術も積極的に決めやすい形状を目指して造形。
正面から突っ込めば、潜り込んで相手を飛ばしやすい形状。

やや幅広めの当てやすさ優先の調整。
多少狙いがずれても側面のカウルっぽい部分が相手をはじくことも。
スピンシュート時は、相手を弾き飛ばすときに一番威力が出る後方のサイドウイング部分が直撃できるように調整。フロントのカウルっぽい部分を斜めに削っているのはちょっとした工夫だけどこだわってみた点。

・・・と、まじめっぽく書いたけど、結局のところ最後は感覚。
ギミックのかみ合い等の計算が必要な機体と異なり、気楽に設計した機体だったりする。
シュートしやすい
フリックスをプレイする上で一番重要な要素といっても過言じゃないのがシュートするときの撃ち心地。
シュートしやすい機体ほど、機体の性能を発揮しやすい。
エクス・プレリュードは機体の真後ろまっすぐ弾く、「ストレートシュート」や、機体後方の側部をはじいて回転を与える「スピンシュート」といった基本的なシュートには当然対応。
素直に狙い通りの動きをしてくれるので非常に扱いやすい。
基本的なシュート以外の一部の特殊シュートもこなせる。
密着状態の相手に機体を経由して力を叩き込んで弾き飛ばすのに便利な、変則スピンシュート「ブレイクメイス」や、挟みながら押し出すことで近距離の相手に高トルクを捻じ込む「キャノンインパクト」9等は出来た。
使える場面は限られるし難易度も高いけど、相手が上に乗ったらロマンあふれる「跳ね上げ」だって狙える。

癖が少ない
初心者だと、変に選択肢が多すぎても何をしていいか分からず、かえって混乱を招いてしまう。
この機体はシンプルな形状で、狙える戦法は「落とせそうなら突っ込む」「マインヒットが狙えそうならうまく当たるようにシュートする」の2択。
少し慣れたら「シュート後に相手の反撃を受けにくい位置になるように狙う」を意識できれば完璧。
要するに基本ともいうべき「どれくらいの力で、どこを狙ってシュートするか」だけを考ることが機体にとっても最適解。
もっと高度なことに挑戦して、後述する「ギミック」を使うにしても重心変化、弾力変化と直感的なもの。
それらを踏まえ、全体的に「わかりやすい性能」にまとまっている。
癖が少ないので、戦術等の検証にも使いやすい。
ギミック「重心バランス調整」
ウエイト(ナット)の取り付け方法は、本体にある六角形のリングにはめ込む構造。
TPUの弾力のおかげで実現できた。
六角形のリングは6個あるので、その中から3つを選ぶ形になる。
重心が変わると操作性も大きく変わるので、お手軽な割にカスタマイズ感を堪能できる。

基準となるのは「前に1個、後ろに2個配置」する王道のセッティング。

重心のバランスがよく、癖が少ないので扱いやい。迷ったらこれ。
後方のウエイトを中心寄りのリングに移せば内重心モード。

小回りが利きやすい。
全てのウエイトを一直線に配置することも可能。(残りのウエイトはシャーシの中にしまう。)

扱いは難しくなるけどストレートシュートの最大攻撃力が大幅に上がる。
使いどころは限られるけど、左右の片側だけに寄せて偏重心にすることもできる。

弾力で固定しているだけなのでナットの取り外しは楽。
側面の縦に取り付けるナットは指で外そうとすると少しコツがいるけど、割りばしで突いてあげれば簡単。

実際の試合現場では、フリップバリケードのスティック部の割りばしを活用すればOK。
ギミック「弾力切り替え」
ウエイト(ナット)の有無で変わるのは重心だけではない。
六角形のリングは中空状態にすると、押されたときに変形してバネのように機能する。


この機構に素材自体の弾力が合わさることで、ロック機構のないバネ機並みの攻撃力を実現。
逆に中空じゃなくすため、リングにナットを入れると、ほとんど変形しなくなる。

この状態にすると、造形機のような運用が可能になる。
もちろん側面も同様。
ナットを入れなければ反発力が上がり、ナットを入れれば反発力が下がる。
前述の重心変更と弾力変更。
ナットを付ける位置を変えるだけなのに、カスタマイズによる性能の違いを実感できる。
自分好みの調整を見つけ出すのも楽しみのうち。
体験できることが多い
上で書いた「わかりやすい性能」とは少し矛盾してしまう気がするけれど、慣れてきて「いろいろ試してみたい」と思ったらに即体験できるのも、この機体の特徴。
例として防御時にバリケードを使って機体を動かせる「ステップ」10。
バリケードが壊れない程度の力で上手く機体を操作しないといけないので少々コツがいるし、機体によっては引っ掛けるところが無いから活用しにくい要素だけど、エクス・プレリュードならシャーシの上にコックピット部とウイング部がある11し、材質のおかげでほど良い摩擦があるので、慣れていない人でも簡単にステップができる。
あまり活用する場面はないけれど、コックピットとウイングの隙間に差し込むことで、しっかりと固定することもできる。

他にも、ナットのつけ外しで軽量化は勿論、レギュレーションを超えた過重量12もお手軽に可能。
拡張ルール「フリップスペル」13有で戦う際、一部のフリップスペルの効果を使うには重量制限があったり、特定条件で重量を追加できたりする効果があったりするので、この重量調整機能も地味ながら役立つ機会は多い。
量産性
3Dプリンターの特権。一度安定して印刷できるようにしてしまえば量産もお手の物。
今回の造形は「サポート材の使用量をなるべく減らす」「やむを得ず使用するサポート材は簡単に取り除けるようにする」ということを意識して設計したので、印刷に関する精神的負担は少なめ。
TPUは印刷時間が遅めの材料だけど、やる気になれば1日2機ぐらい作れる。

たびたび写真に出ているけど、フィラメントの色を変えれば機体のカラーバリエーションが作れることも3Dプリンター量産機のメリット。
特殊な蓄光フィラメントを使えば暗闇で光る機体だって作れる!!

それなりに強い
どんな競技でも現実的な話として「ベテランが駆使するガチ構成 VS 初心者が使う適当な貸出品」という試合だと、初心者が一方的に蹂躙される展開になってしまうのは避けられない14部分はある。
そんな環境にいきなり放り込まれて競技が好きになるのはよっぽどの変わり者。
流石にこの機体を使えば誰でも勝てるというようなぶっ壊れ性能ではないけれど15、材料特性による反発力と扱いやすさ、ストレートもスピンも行けるバランス、何より十分な重量16があるから並以上の性能はある。
流石に高性能機相手には分が悪いけれど、一方的に蹂躙されない程度にそれなりに強い。
ちなみに、慣れてるフリッカーがフリップスペル有りのルールでエクス・プレリードを本気で駆使すれば強力ギミック搭載の最上位のガチ機相手でも同等に戦えることも。
大会で優勝する事だって不可能じゃないスペックは秘めている。
欠点
TPUは接着や追改造がしにくい素材。
それに加えてコンセプトを満たすための要素が複雑に絡み合って成り立っている、良くも悪くも完成してしまっている機体。
なので、エクス・プレリュードを元に改造というのはやりにくい。
いくら王道でいろいろ試せる機体とはいえ、「バネ機の超火力」や「展開による攻撃範囲の拡張」「その他オンリーワンなスペシャルギミック」といった、特殊なことは一切できないので、やりたいことがある人からしたら物足りない。
また、デザインコンセプトはあるけどモチーフは無い。
モチーフありきで格好いいデザイン作れる人は本当に凄いと思う。
そんな、デザインセンスがある人なら、間違いなく物足りなさ感じるはず。
でも、この機体のコンセプトとしては物足りないのは狙い通り。
この機体に感じた不満点をヒントに、自分好みの機体にステップアップしてくれるきっかけになれば幸い。
機体名
せっかくなので最後に名前の由来について紹介。
「プレリュード」
「プレリュード」は前奏曲、序曲。
フリックスを始める人が最初に取る「序曲」として。
そして、自分の作る愛機の「前奏曲」になるように。
そんな願いを込めるには「プレリュード」はピッタリな単語。17
また、これからたくさん生まれるであろう、TPU前提で設計したモデルの1号。
そういう意味でも「プレリュード」。
「エクス」
「エクス」の意味は主に3つ。
①エクスペリエンス(経験、体験)
まずはフリックスという文化を経験・体験してほしい。
エクスペリエンス・プレリュード
プレリュードと合わせて、この機体の開発目的としてはかなりしっくりくる名前。
②エクスペンダブル(使い捨て)
「使い捨て出来るくらい気楽に使える量産機」を目指して。
「機体に設けた六角形リングから、好きなところを選んでナット(ウエイト)を取り付ける」という核となるギミックは以前作った「エクスペンタブルヘキサ」が元ネタ。
精神的後続機なので「エクスペンタブル」の名を受け継いだ。
「一番初めの案は「エクスペンダブル・プレリュード」だったけど名前が長すぎるので「エクス」にした結果いろいろな意味が付属してしまった」というのが実情。
他にも、エクスペンダブルの名を冠した有名映画18の影響で「傭兵」的なイメージも強い単語。
貸出機前提のこの機体に合う。
③エクステンド(拡張する)
「フリップスペル」のエクステンド(一時的に部品を追加できる19)が素で使えることを前提として設計したから。
ちょうど機体の作成中にエクステンドの効果の改訂が行われたので、せっかくなので対応してみた。
エクステンドを前提とした機体1号機。
そんなわけで、「エクステンド」が由来ですといってもバチは当たらないと思っている。
他にも「エクスプローラー(探検者、探究者)」とかも由来ではあるけれど、「エクス」自体凄まじい量の意味があり、いくらでもこじつけ出来てしまうので、とりあえず上記3つが機体に込めた意味。
さいごに
以上、貸出機特化機「エクス・プレリュード」の紹介でした。
何度かフリックス会に持参しているけど、今のところ貸出機としての評判は上々。
時にはエクス・プレリュード限定の勝ち抜き戦なんかも楽しんでもらえてるのは開発者名利に尽きる。

せっかくなので、機会があれば「エクス・プレリュード限定の本気の大会」を開催してみるのも面白いかもしれない。
何はともあれ、この機体をきっかけにフリックスに興味を持って体験してくれる人が増えてくれたらいいなぁ・・・
注釈- バランス重視の機体も少なからずあるけれど、全フリッカーが持っているわけでは無いから、せっかく体験したいという人が現れてもバランス機を貸し出せないという状況が起こってしまう。[↩]
- 余談になるけど、なるべく「兼ねる設計」を意識したせいで、予定以上に要素が複雑に絡み合ってしまい、設計者的目線では「してやったり」という気分だけど、文字にまとめる何度が跳ね上がってしまい、記事に起こすのに機体設計の数倍の時間がかかってしまった・・・[↩]
- 厳密にはフリックスアレイを使った「アクティブバトル」という競技。[↩]
- 非常に扱いやすく精度が出る。固いが欠けるときは欠ける。[↩]
- ホーデン式の3Dプリンターの場合、送り出し速度の設定がシビア。一度設定してしまえば、それなりに安定。[↩]
- 少なくとも切り出したままのプラ板よりも安全。[↩]
- なんやかんやで40機以上。試作段階で問題が見つかり破棄した機体や未公開作品も合わせたらそれ以上。[↩]
- ほかの人が作った機体を借りて戦うのも楽しい。[↩]
- ルール上、0.5秒以内に手を放す、シュートできる距離は14㎝以内、相手と接触状態では不可等と制約有。[↩]
- 厳密なルールは公式参照。[↩]
- ルール上、シャーシの上の部分以外触れない。[↩]
- ナットを4つ以上装着するだけ。[↩]
- 特殊な効果を最大2つ選んで戦う追加ルール。[↩]
- 運ゲー要素が強い競技を除く。[↩]
- そんな機体があるならば自分のガチ機として使う。[↩]
- レギュレーション72gに対して70g程度[↩]
- 『機体制作時に「夢色プレリュード」という曲にハマっていた』というのも裏理由。作成当時に気に入っていた曲から名前を取るのは「リベリオン」とかよくある。[↩]
- エクスペンダブルズ[↩]
- 詳細な効果は公式のスペル一覧参照[↩]
コメント