概要
先日、ゴッドハンドから発売された工具「アメイジングカッター(トライアル版)」。
プラスチック板の直線切りに特化したカッター。
ある意味巨大ニッパー、あるいはハンディ裁断機といったほうが正しいかもしれない。
価格は12850円。手動工具としては高価な部類。
とはいえ、アルティメットニッパーも6000円近くするので、刃こぼれしても替刃がある巨大薄刃ニッパーと考えれば安い気もしてくる不思議。
前からずっと気になっていたけど再販がなかった工具の実質再販ということで、思わず購入ポチってしまったので、いつもどおり簡易レビューしてみる。
アルテイメットカッターとの違い
以前発売されていた「アルテイメットカッター」の説明を読む限り、「アメイジングカッター」とは見た目も機能も価格帯もほぼ同じ。
どうしても違いがわからなかったので、公式にお問い合わせさせていただいたところ、
「製造工程見直しに伴う名称変更で、物としてはほぼ同じ」
と教えていただいた。
なので工具を使う側からすると「アメイジングカッター=アルテイメットカッター」と言う解釈で問題なさそう。
アルティメットカッター欲しかったけど再販がないと嘆いている人はアメイジングカッターでOK。
開封
トライアル版だからか包装はとても簡素。
内側に緩衝材が貼られた開けやすい封筒(ゴッドハンドの印入り)で届いた。
中にはプチプチで保護された工具本体と付属品、説明書、チラシ、納品書が入っていた。
大きさと重量
模型用とはいえ手で持つ工具の中では結構大型。
機能
おそらくアメイジングカッターの公式サイトを見たほうがわかりやすいし早いので、ここでは簡潔に。
替刃が市販のカッター刃
個人的に一番好きな点。それが「替刃が市販のカッター刃(小、9mm)で良い」こと。
「本体セットは安価だけど専用替刃が高価」というプリンターのような商法の工具も少なからずあるけど、アメイジングカッターはその逆。
本体が高いけど消耗品は激安。11円~20円程度。
本当に普通のカッターの刃なので、替刃の入手性も非常に良好。
コンビニでだって調達可能。
替刃のコストが非常に低いので気楽に刃の交換ができるのも魅力。
高価な専用刃では躊躇われる「耐久性をやや犠牲に切れ味に超特化」な仕様も、特選黒刃を付けるだけで実現できる。
(というか特選黒刃の使用が推奨されている。)
また、刃が一般的な規格というのは、同じ規格で作られている特殊な刃だって使うこともできるということ。
アメイジングカッターの推奨品ではないけれど、フッ素コート刃(コニシ)やチタンコート刃(3M)すら選択肢に上がる。(実用性はともかくとして)
受け板
替刃同様、受け板も専用品ではなく汎用品。
3mm角のプラ棒をちょうどいい長さに切ったもの。
こちらは市販品を買って終わりというわけではなく、自分で加工が必要。
とはいえ、3mm角のプラ棒は、このアメイジングカッター自身でラクラク切れる。
量産すら簡単。
3mm角のプラ棒はホームセンターやハンズで買える。
入手は容易。
(もっともハンズまで行くならドマイナーな工具でもない限り替えの部品が手に入りそうな気もするけど)
参考までに、模型用のタミヤ製の角棒は約400mm強の棒が10本入って278円(ヨドバシ)。
アメイジングカッター用の受け板の長さは本来82mm。
だけど少しくらいなら短くても使えるので、80mm強の長さで切った場合、1本に付き替え受け板を5個切り出せる。
なので計算上は交換1回あたり、278/(5×10)≒6円。
替刃と合わせて消耗品の運用コストが非常に低い上、入手性が高いので「気軽に消耗品を新調できる」のがアメイジングカッター何よりのメリット。
生産終了を恐れなくていい(消耗品が貴重品にならない)というのもありがたい。
ガイドストッパー
カッターの根本にあるガイドパーツ。
これにプラ板の真っ直ぐな面を当てて切れば完全な垂直ではないけれど、ほぼ垂直が簡単に作れる。
専用スケール
アメイジングカッターに取り付けて使える小さな専用スケール。
透明なワッシャーも付属。
見にくいので無くさないように注意。
取り付け方法は受け板固定用ボルトの一つで挟み込む形。
メモリはあくまでも目安なので誤差がそれなりにあるけれど、切断時のズレは一定。
なので『これの9mmに合わせればちょうど1cm』というようにズレに慣れておけば便利に使える。
加工する面ではあって困ることはないけれど、保管時にかさばってしまうのが欠点。
スケール用ストッパー
専用スケールに付ける専用ストッパー(別売のオプション品)。
通常は別売のオプション品だけど、今回買ったトライアル版では先着100本におまけで付属した。
トライアル(試作)版
現時点では正式な製品版ではなくトライアル版。
試作品というと少し不安になるけど、特に問題なく使えている。
というか、問題になりそうなものは通販なんて普通はしない。
それに、アルティメットカッターという実績も既にある。
そもそもロボット物やホビー物で試作品といえば、大抵はときめくロマン枠。
「試作品→問題点を解消→製品(量産品)」の流れなのだから、頭では量産品の方が質が良くなる物なのはわかっていても、どうしても試作品の方が強いイメージを持ってしまっているのも事実。
模型とロボット物・ホビー物は切っても切れない関係なので、そういう層を狙っての「トライアル版」なのを疑っていたり・・・
(便利な工具を買ったらおまけにロマンもついてきた。大好き!)
切断テスト
ここからが本題。実用性について。
身の回りにある様々な材料を切ってみた実録メモ。
標準の特選黒刃を使って検証。
ABS
工作でおなじみのプラスチック。
余裕で軽々切れる。断面もまっすぐ。
非推奨な方法ではあるけれど、先端で切れば両断ではなくプラスチックの途中までカットと言うことも出来た。
右下のみ切った例。
ただし、圧力で切っているせいか黒や透明のABSだと少し白化する。
PS、塩ビ 、アクリル
簡単に切れる。
一刀両断する用途なら2mm厚の集光アクリルも切れた。
溶かしたりする訳では無いので、臭いや煙や粉塵が発生しないというのも密かなアメイジングカッターのメリットの一つ。
厚めのゴム板
アメイジングカッターが特に輝ける場面の一つ。
3mm厚の硬めのゴム板と約6mm厚のやや柔らかめのゴム板で確認したら、びっくりするほど楽で綺麗に切れた。
厚めのゴム板は力が加わると変形してしまうので、ハサミだと真っ直ぐ切るのが困難(切り口が斜めになる。)
カッターだと何度も切り口をなぞる必要があり一発カットは無理。(超音波カッターですら数回なぞらないといけない)
それが一発できれいに切れるのは感動もの。
厚めのゴム板を切る機会が多いなら、それだけで購入に満足できるはず。
ダンボール・厚紙
切れる。
薄い紙
切れなくは無い。
けど、直線が欲しいなら素直に鉄定規&カッターの方が細かい調整が効く。
曲線も切れない。曲線欲しいなら素直にハサミを推奨。
マスキングテープ
切れるけど、そもそも切断にトルクは全く要らない上、本体が大きすぎるので、細かいマスキングテープを切るのはむしろやりにくい。
素直に軽いハサミの方が楽。
フッ素コート刃(非OLFA)との相性が良さそうではあるけれど・・・
ちなみにどうしてもゴッドハンドの工具でマスキングテープを切りたいならマスキングテープ専用ニッパーなるものも・・・
基板(ガラス繊維入り)
流石に切れず、特選黒刃が刃こぼれしてしまった。
木材(木棒、割り箸)
割り箸程度なら軽々。切断面は非常に綺麗。
木材は圧を加えると直ぐに潰れて後が残ってしまう素材。
厚い棒材を切る所で切らないと後が残りやすい。
凹みがついてしまった例。
木材なので上手く水分含ませれば凹みを復元出来るけど面倒。
細い同軸ケーブル
軽々切断。
切断面がとても綺麗。
金属(鉄板・真鍮線。ビス等)
切れない。一発で刃が欠ける。
カッターで明らかに切れないものに使うのは厳禁。
これらのものを切りたいなら、素直にミゼットカッター(ワイヤーカッター)を使うこと。
本(冊子)
切れるには切れるけど、厚さ2mmを超える冊子は中途半端にしか切れない。
自炊のために本の背を切り落とす場合、素直にカッターで何度もなぞるか、裁断機の方が良さそう。
湿布薬
工作とは無縁な日常生活の中でも、地味にアメイジングカッターが活躍する場面。
指や手などの細かいところに貼る場合、湿布薬を細かく切って使うこともあるけれど、湿布薬は伸びてしまったり粘着力があったりして、ハサミでは切りにくい。
そんな湿布薬もスパッと裁断できる。
普通のハサミだと粘着物が刃についてしまいペタついてしまう。掃除が面倒。
アメイジングカッターの場合は、せん断するわけではないからほとんど粘着物が付着しないし、万が一付着したとしても、刃と受け板を交換すればいいだけ。
他の工具との比較
アメイジングカッターと他の工具との比較。
比べてみるとアメイジングカッター独特でオンリーワンな立ち位置。
当たり前だけど、どの工具も定期的なメンテナンスは忘れずに。
超音波カッター
高価な工作用カッターといえば真っ先に上がりそうな電動工具、超音波カッター。
どちらも「カッターで切れる物は楽に切れ、カッターで切れない物は切れない」「本体高額だけど運用費は安め」という共通点を持つので似たような立ち位置かと思いきや、
超音波カッターは
・曲線切り可能
・くり抜きが超得意
・きれいな直線を切るのは困難
・切り口が独特
・電源必要
なのに対して、アメイジングカッターは
・直線切り出しに特化
・曲線や切り抜きは困難
・切り口綺麗
・電源不要
と何気に競合しない関係。
むしろ補完しあえる関係。
軽く試した限りだと、超音波カッターで大枠を切り出した後に、エッジをアメイジングカッターで切って仕上げると割とシュッとした感じに仕上がる。
ミゼットカッター(ワイヤーカッター)
リンク機構を活用した裁断用工具で、巨大で高出力なニッパー。
刃の交換はできないけど、刃が厚く簡単には刃がこぼれず、薄めの鉄板や、M3ビス、細い鉄棒すら切れるのが特徴。
だけど切れる範囲が短い。
アメイジングカッターはその逆。
鉄をも切る力はないけれど、広い(長い)範囲が一気に切れる。切断面も綺麗。
はさみ
比較的競合関係。
細かい作業や曲線が切れるのがハサミのメリット。
ただし、せん断力で切ってるので、切り口がやや斜めになる。(厚いゴムだと顕著)
また、切り方によってはプラスチックが曲がり変形してしまう。
アメイジングカッターは細かい作業は不向きだけど切り口が綺麗。
(追記)実際運用してると、アメイジングカッターは大型で存在感のある工具なので、散らかった部屋の中だとすぐ行方不明になるハサミと違って、物が散乱している環境でも埋もれにくく見つけやすいという密かなメリットも。
おかげで、本来はハサミで十分な用途(ちょっとした袋を開封したいときなど)でも、アメイジングカッターの方がすぐ見つかるので、日々の生活の中でかなり重宝している。(用途としては性能の無駄遣いだけど)
刃こぼれと刃の交換
次に刃こぼれについて。
刃こぼれ
刃こぼれしてしまった例。
こうなってしまったら刃の交換をしないとせっかくの切れ味が台無し。
刃がかけた状態で切ると、当然その部分が切れず、切り残しが発生してしまう。
指でちぎって離すことはできるけど、切断面がきれいじゃなくなってしまう。
刃の交換
ボルトを外して固定用のパーツを外して刃を交換する。
ちなみにこのボルトはM3。
レンチもミニ四駆とか超音波カッターでお馴染みのM2用よりもやや太い。
刃の取付構造は刃を板2枚で挟み込んで固定する形。
このおかげで途中で折れない。
余談:刃こぼれした刃の再利用
アメイジングカッターで刃こぼれしやすい場所は「根本」。
その根本は普通のカッターでは固定に使うために刃としては使わない所。
なので再利用したい衝動に駆られる貧乏性な人も少なからずいるはず。
非推奨な方法だし、高めに見積もっても20円しないものなのでケチるもべきものではない。
無論使った文だけ消耗しているので、新品の刃を使ったほうが良い。
切れ味が落ちてるせいで怪我したら目も当てられない。
それがわかっている上で自己責任のもとあえての活用方法。
カッターに使う
通常のカッター刃(小)なので、カッターにセットすれば当然使える。
前述のようにアメイジングカッターの根元部分はカッターでは使わないので、一発目で根本のみが欠けたようなケースではありかもしれない。
デザインナイフに使う
カッター刃の「小」なら幅が9mmなので、刃を折ってオルファのデザイナーズナイフにつけることも可能。
刃を折って使うので「刃が無事な部分のみ使う」的なことも理論上はいける。
切れ味は良いけど刃先が短くなってしまうので癖が強い。
(※定番の黄色い「デザインナイフ」とは別物。紛らわしいので注意。)
さいごに
アメイジングカッターについてまとめるなら、
比較的高額な工具で、綺麗さはともかく切断自体は他の工具でもできるので、導入の優先順位は高くない。
工作入門向けなら先に別の工具(ルーターとか)揃えた方が捗ると思う。
(※ゴム板加工が多い場合は別。その場合の優先順位はかなり高め。)
でも、逆に一通りの工具が揃えた人が、さらに便利そうな工具を増やす場合にはオンリーワンな特徴が多くてかなりオススメ。
そんな立ち位置だと思う。
というわけでアメイジングカッターの簡易レビューでした。
(2018/8/28 プラ棒について詳しく追記)
(2018/10/16 湿布薬について追記、ハサミとの比較に追記)
コメント
オルファっぽいカッター用の替え刃なら何でも替えられてアクリル材まで綺麗に切れるとは凄いですね。少し前に出てたウェーブのHGユニバーサルカッターの上位互換みたいな工具です。ところでアメイジングカッターも超音波カッターも無かったころはどういう工具でプラ材の切断作業をこなしてたんですか?
>66ダッシュアクションさん
現状ユニバーサルカッターの「角度切りガイド」に相当するものがアメイジングカッターには無いのがネックです。あちらもまともに使うには調整・改造必須のようなので自作してしまうのも手かもしれませんが・・・
工具が増える前の切断加工ですが、最初の最初は「普通のハサミ」と「普通のカッター」で、少ししてからは「オルファデザインナイフ」で切断してました。
電源不要で省スペースなので、工具が増えた後でも出先で工作する場合や仕上げ作業でとても重宝してます。(特にオルファデザインナイフ)